1: きつねうどん ★ 2020/02/15(土) 15:43:39.11 ID:CAP_USER
「酒は飲んでも呑まれるな」とはよく言ったもので、酒による不始末は古今東西、枚挙に暇がありません。

その不始末にも、後から振り返って笑い話ですむものから、二度と取り返しのつかない大失態まで様々ありますが、いずれにしても周囲がその尻ぬぐいに苦労させられるのが世の常。

そこで今回は、とある戦国武将の泥酔エピソードを紹介したいと思います。

城主は今日も酔っ払う
時は戦国、関東の雄として知られた北条(ほうじょう)氏の部将・諏訪部定勝(すわべ さだかつ)は、武蔵国の日尾城(現:埼玉県小鹿野町)を守備していました。

この辺りは南西から甲斐の武田氏・北は越後から上杉氏が勢力を張り出している係争地で、険しい山々に囲まれているため守りやすいものの、決して油断は出来ません。

そんな西関東の重要拠点を任されているだけあって、定勝は多くの武功を立てて軍略に優れていたそうですが、酒癖の悪さが玉にキズ。

いつも酒を飲んでいたので、いざ城が攻められた時もたいてい二日酔いか、ひどい時はさっきまで呑んでいた勢いで敵中へ殴り込んでしまうムチャクチャぶり。

これではとても軍勢の指揮など執れないため、いつしか妻の遠山氏(>>>1が甲冑を身にまとって采配を揮うのが習慣になり、諏訪部家中の者たちもそれを当然のごとく受け入れたそうです。

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「戦いとうはございませぬが、かかる火の粉は払うまで」定勝に代わって防戦の指揮を執る妻・遠山氏(イメージ)。

>>>1北条家臣・遠山直景(とおやま なおかげ)の娘で、俗名は不詳。後に出家して妙喜尼と称したことから、もしかすると喜子(よしこ)などと言ったのかも知れません。

「母上から『女は家を守るもの』と教わって諏訪部へ嫁いで来たけれど、まさかお城を守ることになろうとはね!(苦笑)」

……それでもやはり日尾城の総大将は定勝であり、一緒に戦ってくれるくれないでは、気持ちの上でも大きく違うもの。

「……とは言えあなた、思わぬ不覚の元にもなりかねませぬゆえ、どうか深酒はお控え下さいましね……」

「ははは愛(う)いヤツ、解った解った……まぁそれはそうと、今夜は客人があるゆえ、たんと饗(もてな)さねばのう……」

優しく諭す妻の心配など馬耳東風、今夜も大盃を次々と干していくのでした。

武田が本気で攻めてきた!
……そして泥酔。今回はいつにも増して酔いが深く、妻がいくら起こそうとしても、一向に目を覚ましてくれません。

「あなた!敵襲にございますよ!」

「う~ん、むにゃむにゃ……」

しかも折悪しく、今回の敵将は武田二十四将の一人・山縣昌景(やまがた まさかげ)。天下に武名を轟かせた精鋭部隊「武田の赤備(あかぞなえ)」を率いて本気で攻め込んで来たのでした。

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武田の赤鬼とも恐れられた猛将・山縣昌景。Wikipediaより。

2: きつねうどん ★ 2020/02/15(土) 15:43:46.20 ID:CAP_USER
「おのれ諏訪部、此度こそは……!」

これまでにない猛攻撃が押し寄せる中、それでも定勝は目を覚ましません。

「御台所様、早くご下知を!」

「あなた、あなた……!」

もうこうなっては仕方ありません。まだムニャムニャ言っている定勝をほっ転がして、妻はいつも通りの甲冑姿で陣頭に立ったのでした。

「御台所様、あちらの守りが破られてございます……!」

「分かりました!うぉりゃあ……っ!」

遠山氏は薙刀を手にとって戦線へ急行、男勝りの大立ち回りを演じて、どうにか武田勢の撃退に成功したそうです。

鬼より怖い妻の笑顔
「んあ?……何があったんじゃ?」

ようやく酔いから醒めた定勝は、目の前の光景に呆然。城内のあちこちで残り火が燻(くすぶ)り、敵味方の死体が転がっているではありませんか。

「……あなた」

「ひい……っ!」

恐る恐る振り返ると、そこには武田の赤鬼よりも猛々しい妻の姿。全身に返り血を浴びて、手に持った薙刀の刃から、未だ乾かぬ血が滴り落ちています。

「……敵方は……ことごとく追い払(はろ)うておきましてよ?」

いつもと変わらぬ優しく美しい妻の微笑みが、今は何より恐ろしい。

「……面目次第もございませぬっ!」

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「もうお酒はこれっきりになさいましっ!」「ひえぇ、堪忍々々」妻・遠山氏にねじ伏せられる定勝(イメージ)。

必死で戦っていた日尾城の皆に平謝りした定勝は、後日、主家の一門衆・北条氏邦(ほうじょう うじくに。鉢形城主)からも呼び出しを食らい、断酒を誓わされたそうです。

「……とほほ……」

とは言うものの、その後は北条氏が豊臣秀吉(とよとみ ひでよし)に滅ぼされる前年(天正十六1589年12月17日)に54歳で亡くなるまで、一滴の酒も呑まず忠勤に励み、家臣たちの信頼を無事に取り戻したそうです。

妻・遠山氏は定勝の死後に出家、妙喜尼(みょうきに)と称して夫の菩提を弔ったそうですが、もし彼女が豊臣軍と戦っていたら、『のぼうの城』に登場する甲斐姫のような武勇伝を残したかも知れませんね。

※参考文献:
阿部猛・西村圭子 編『戦国人名辞典』新人物往来社、1987年2月

https://mag.japaaan.com/archives/113317

引用元 http://itest.5ch.net/test/read.cgi/liveplus/1581749019/